【とりとめのない話】
「もう息が白くなってきたね」
そんなとりとめのない話をポツポツと、合間の沈黙に苦しみながらしている。
隣を歩く男のことが私はあまり好きではないし、ましてや沈黙もとりとめもない話も楽しめるような間柄ではない。
同じ大学で同じ学科、さらには同じサークルに所属しているもののほとんど喋ったことは無かったし、たまたまサークルの飲み会が終わって帰る方向が一緒だったから何となく並んで歩いてしまっているだけなのだ。
「加賀見くんって、下の名前は冬弥だったよね。もしかして冬生まれ?」
まずい、これで誕生日近かったらプレゼント渡さなきゃいけない感じになるんじゃないか?なんて失礼なことを考える。
「夏生まれだよ。8月に生まれたのに、冬弥。両親が出会ったのが冬で結婚したのも冬だかららしい。雪乃さんは?」
この世の全てに興味のなさそうな顔をして生きているこの男が私の名前を覚えていたのは意外だった。
喋る時に微かに綻んだ顔がちょっとだけ可愛く見えたのも、私との新たな共通点も、何もかもが意外だった。
「私も8月生まれだけど、苗字が白石だから雪乃。白雪姫みたいにこの世で一番美しい子になってほしいからだって。」
私はこの世で一番美しくなんてないし、こんな由来恥ずかしくて誰にも言ったことはなかったのに、ついサラッと言ってしまった。
「そっか、たしかに美人だもんね」
顔が熱くなるのは、今になって酔いが回ってきたからだと思う。
12/18/2022, 3:10:51 AM