夜叉@桜石

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魔法の汽車に乗って、世界を旅しよう。
たとえば、最先端の街。
電子掲示板が光って、信号待ちなんていうものはなく、人は空飛ぶ車で移動する。背の高いビルと地下のネオンサインに埋められた地上と、車が飛び交う空は電子の街だ。私たちはちょっと地球という星を心配して、そのあと観光するだろう。かっこいい機械やロボットがあれば、きっと君たちはそれにくぎ付けだろうね。
たとえば、深い海の底。
太陽の光が届かない海の底で、小さなランプの光だけ。暗いままふらふらと踊っていたら、きっと彼女たちはやってくる。きらきら輝く美しい尾びれをもつ人魚は、ふわりと私たちをつれて深海の街へ赴く。海上の反射光を閉じ込めた青いランタンに照らされて、大きな泡に包まれた壮麗な街が現れたら、君たちは声を上げてはしゃぐだろう。
たとえば、深い森の中。
古びた朱色の鳥居をくぐれば、きっとそこは幽世の世界。時が止まったその場所で、うごめく影を横目に歩こう。森を抜けても知らぬ町。慌てて戻れどもう遅い。ぞろぞろ這い出る何かを倒して、必死に探した鳥居を見つけ、みんな一緒に踏み出せば、そこは見慣れた森の中。二度とごめんというだろうけど、たまにはいいと思うんだ。
たとえば、空の雲の上。
白い大地に白い海。地面を歩く度、ずずんと沈み、ふわんと浮かぶ。少し歩いて緑の大地が見えたなら、つる植物をつたって岩場に登り、白い町を見渡そう。いつか見た石の塔と黄金の金は失われても、その国の人々はずっと美しい。雲の上から降りる時は気をつけて。きっと雲は移動していて、真下は海かもしれないよ。
たとえば、鏡の中の国。水面に写った月を通って不思議の国に踏み込めば、そこは全てが反転していて、私たちも例外では無い。君たちはお互いを見て笑うけれど、なんだか既視感があるのは私だけかな。いつか見た景色の中にこの国の君たちがいた気がした。薔薇の迷路とお城を抜けて、お茶会に参加したら、不思議な猫と散歩して、すぐまた最初の鏡に行き着く。帰ってきたら鏡は通れず、みんなで夢を疑うかもね。
たとえば、こんな理想の話。
みんなで行けるのは、人生一度に世界も一つ。残りの世界は、いつも必ず一人旅。いつか訪れる終点まで、各駅停車に乗り込んで、じっと、ずっと、耐えて、耐えて、耐えて。いつか、壊れてしまった時は、終点までの特急列車に乗ろう。と、現実の中を歩いている。
たとえば、この旅が終わるなら。
私は最後に、君たちと会いたい。

8/11/2024, 2:24:37 AM