Werewolf

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【一つだけ】

 昔々あるところに、森の深い場所のさらに奥、山の麓の洞窟の前に、小さな小屋がありました。
 その小屋には魔女が住んでいて、魔女の試練を乗り越えたら、洞窟の宝を守るドラゴンを眠らせ、そこにある宝をどれでも一つだけ手に入れることができました。
 多くの者は魔女の試練を乗り越えることができずにいましたが、中には遠くを見通せる透明な石や、被せるだけで傷の治る布、美しい銀色の羊など、富を得る宝を手にしたものもおりました。

 こんこんこん
 青年は優しく三回、小屋の扉をノックしました。
「誰だい」
 と、嗄れた声が答えます。
「突然申し訳ございません。こちらに我が国の王子は来ておりませんか」
 青年はある国の騎士でした。騎士は凛々しい顔を曇らせていました。
「王子なんて山ほど来てるんだよ」
 そう言いながら扉を開いたのは、しわくちゃの魔女でした。
「知ったことじゃないね」
「リンゴの国の王子をご存知ありませんか? 我が国の井戸という井戸が枯れてしまったのに、元に戻ったのです。きっと王子は成し遂げたに違いありません。それに、あちこちの森が豊かになりました。魔女様、どうか私に王子の行方を教えてください」
 騎士は取りすがるように魔女の手を取りました。魔女は手を払って、ふん、と鼻で笑いました。
「リンゴの国の王子なら、宝物庫に宝を放って帰ったよ。そうだ、アンタが王子の選んだ宝を当てられたら、王子を探す宝を手に入れられるかもしれないね」
 騎士はすぐに承諾しました。洞窟に入ると、ドラゴンが静かに寝息を立てていた。騎士は静かにその横を通り抜け、宝の山を見上げた。目もくらむような魔法の宝だが、どこを見てもピンとこない。
「これは?」
「頼めば肉を出してくれる皿さ」
「これは?」
「これをつけて触れれば即座にものが乾く手袋さ」
「これは?」
「どこにでも風が吹く箱さ」
 うーん、と騎士は首をひねりました。どれもこれも、願いを2つ同時に叶えるようなものではなかったのです。
「魔女様、申し訳ございません。この中に王子の選んだ宝はありません。きっと、なにか別の方法を選んだのでしょう」
 騎士はあたりを見回してそう言いました。すると、魔女はにんまりと笑みを浮かべました。
「アンタは試練に打ち勝った」
「えっ?」
「宝に目が眩んで、コレでいい、と持ち帰るようならそれまでと思ったのさ」
 ねぇ、と魔女が話しかけると、ドラゴンはゆっくりと瞼を持ち上げる。
「ああ、よく探しに来てくれたね、我が騎士よ」
 ドラゴンは王子の声で喋りました。
「私は魔女と取引をしたんだ。欲しい物が三つある、賭けをしないか、とね」
「アタシは一つ目の宝、川を蘇らせる宝珠は報酬として与えた。そしてら二つ目の宝、森を豊かにする風を吹かせる腕輪は、王子がドラゴンになることで承諾した。三つ目の宝は、王子を探しに来た人間が、正しい選択をして、宝を手にせずに帰るのであれば、渡そうと言った」
 魔女がニッコリと微笑んだ途端、その姿が若く美しい女のものに変わりました。
「三つ目に希望する宝は、私だそうだ。さぁ、王子、国に帰る時だよ」
 たちまちドラゴンは騎士の敬愛する王子のものになり、三人は互いに抱き合った。

 こうして、国を救った王子は、騎士と魔女を連れて国に帰り、その国は末永く栄えましたとさ。



♡250オーバーありがとうございました、大変嬉しいです

4/4/2023, 3:35:20 AM