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【風景】

「最期にあなたの顔を見れて、私は幸せです。
世界がこんなに綺麗だなんて、誰が想像できたのでしょう
神様どうもありがとう…」

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昔ある魔法学園に通っている少女がいた。
見た目は可憐で美しく、触れると壊れてしまうのではないかと思うほど柔らかい。

しかし彼女は悩みを持っていた
彼女は盲目だったのだ。
それを理由に周りは彼女を痛ぶっていた。
それでも、彼女は言い返すことをしなかった。
1人耐えて過ごしていた。

ある女の子に出会うまでは。

これはそんな盲目の少女の物語

――――――――――――――――――

私は学園で知り合った女の子とパーティーを組んで魔王退治に挑んでいた。
その女の子は、私が盲目であることをわかった上で優しく接してくれて、時には助けてくれた。
私のヒーローだった。


「あっちゃ〜、こりゃ酷くやられちゃったね笑
蘇生もっ…無駄みたい…」


「お力になれず……ごめんなさい…」


「いいのいいの、っ……
あ〜、楽しかった……本当に人生で1番楽しかったよ」


「私もっ…です。」


「もう長く持たなそうだから、最期に話させてちょうだい…
私、本当はみんなの『英雄』になりたかったの…
魔王を倒して、辛い思いをしている人達のヒーローになりたかった

顔が醜いばかりに散々な毎日でっ…
見返したかったし…こんな私でもすごいことを証明したかった
誰かに役に立てることを示したかった……
でも、……アハハっ
魔王倒すだけで死んじゃったらっ、元も子もないよね笑
誰にも称えられることもなく
誰も私たちが倒したことなんてきっと、
知ることはない…

何事も無かったかのように日々は過ぎ
魔王を命を引き換えに誰かが倒したということすら忘れ去られていく…

どうしてこんなにっ、惨めなんだろうね…
私は本当のヒーローじゃないから、なのかな……

でも、後悔はないの、
もう、惨めな自分なんて思わない…
私にはあなたが居るから……」


堪えようとしても絶えず涙が溢れる
その涙はいつもと違った。
誰かに殴られたり、罵られたりしたあの時の涙とは
違う味がした…

この涙は甘酸っぱく、切なかった…
まるで、こんな世界に未練があるかのような


「私も………あなたに出会えて…幸せでした…
あなたがあの時私を救ってくれなければ、
私は今頃ここにはいませんでした……

私も、最期なので、少し話したいです…」


「なんでも聞くよ」


優しい声だった。いつもそう。
言葉こそは強かったけれど、あたたかい


「実は私………元々は目が見えたんです。」


声は出ていなかったけれど、驚いた気配を感じた。


「私が男じゃないばかりか、それほど強くもなくて、少しのことで親は気に入らない私に暴力を振るいました。
ある日、私が間違えて親のお気に入りだった洋服をダメにしてしまいました

そうしたら、『お前の目もダメにしてやろうか』って、

何も見えない世界は怖かったです。
不便でしたし、何より見えないところから殴られたり蹴られたりするのが怖かったのです…
でも慣れて、1人で生活出来るようになってからは辛くなくなりました。

逆に『こんな世界見えない方がマシだ』ってそう思ってました。
私の見えている世界はくすんで薄汚かったです。

こんな汚い世界、見えなくて正解なんだって
目が見えてた時に見た親の顔は今も鮮明に覚えています。
見えない方が良かった。きっと思い出して辛くなることもないんだと。」


「そんなに……辛い想いをしていたんだね…
許せない…子供の目を使えないようにするなんて……」


「今でも憎いです……なぜならあなたの顔が見えないのですから……

あなたに出会って初めてまたこの目で世界を見たいと思えました。
忘れたくなかったから…あなたことを
目に焼き付けて、ずっと覚えておきたい
どんな顔をして、どんな姿をしているのか、
目は何色で、どんな髪型で、どんな風に笑うのか……

醜いことなんてどうでもいい

私はあなたを知りたい……
またこの目で世界を見たい……」

今まで見ようと思わなかったのは
この世界が汚いからじゃない

きっと、見たくなかったから

でも、今はあなたを見たいと強くそう思うのです…
叶わない夢を抱いて死んでいくのは、辛いなぁ…


「君の見た最後の人が、私になってくれたらいいなって、わがままかな?……」


そんな言葉が聞こえた直後、目が急あたたかくなった

なんだろう……?眩しいような…


「目を開けてごらん」


ゆっくりと目を開く
周りには蝶や、鳥が飛んで
空は快晴の青空
海の向こう側まで見えるような澄んだ景色
魔王の返り血で汚れた私達は、
こんな場所に見合わないくらい世界は輝いていた。
昔見た景色とは全く違う。

とても綺麗で、生き生きしていた。

そして微笑みかけているあなた


「誰よりも素敵な顔をしていらっしゃるじゃないですか」


透明な頬が少し赤らむ
直後、あなたは私の手を強く握ってこういった


「どうか、私のことを忘れないで………」


「はい、約束です。
この繋いだ手も、もう一生離しません。」


微かに、あなたが微笑んだ気がした

4/12/2025, 1:08:54 PM