萌葱

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「この世界ってさ、コーヒーと似てるよね」
彼女はカップの中に入ったコーヒーをぐるぐるとスプーンでかき混ぜながらそう言った。
急に何を言い出すのやら。
「この世界ってさ、凄く苦いのよ。そのまま受け止めると火傷することだってあるしさ。砂糖やミルクみたいな甘くて嬉しいことで誤魔化していかないとどうにも飲み込めないでしょ。」
…いや、ブラックコーヒーを好んで飲む人も大勢いるだろ。
思わず口を出しそうになってしまってぐっと唇を噛み締めた。
言わんとしていることは分からない、でもない。
「けどね、美味しいのよ。そのままではとても頂けないけど、砂糖やミルクをいい塩梅で入れるととっても美味しいの。苦さも美味しさに変わるみたいな。
だからね、私この世界もコーヒーも好きなの」
そう言いながら彼女はまた角砂糖のポットへと手を伸ばした。僕はその手をピシャリと叩く。
「何個目だよ」
「5個目よ。甘ければ甘いほど私は嬉しいの」

1/15/2023, 3:00:50 PM