不意に、気づいてしまった。
かけがえのない親友が、隣で朗らかに笑っていたその時に。
ああ、これは夢なのだと。
だって、現実ではもう親友には会えはしないのだから。二人で過ごした最後の記憶は、今より何年も昔の、子供の頃の情景で止まっている。
でも、それでも良かった。
これが夢だとしても、また親友と楽しく過ごせるのなら、それで。
なのに、親友は急に表情を曇らせて、「気づいちゃったか」と寂しそうに呟く。
何が? と笑ってはぐらかそうとしても、声は出なくて。
口を開いても、喉に力を込めても、何も言葉を発せなくて。
だめだ。早く否定しないと。誤魔化さないと。嫌な予感に焦っても、状況は改善しないまま、親友は寂しげに笑うだけ。
ついにはこちらに背を向けて、明るい光の方へと歩き出してしまう。
いやだ、行かないで。まだここに居て。まだ一緒に居たい。話したい。笑いたい。まだ──
声が出ない。
急いで走り出したのに、一向に距離が縮まらない。
だんだん周囲の光が強くなって、親友の姿が、霞んでいく。
*
眩しい朝日が射していた。
ぼんやりとした思考のまま、辺りを見回す。見慣れた自分の部屋だ。春から借りている、安アパートの和室。昨日適当に引いたせいか、カーテンの間には隙間ができていて、そこから光が漏れていた。
寝心地の良くない煎餅布団の上で起き上がり、伸びをする。そうしていると不意に今まで見ていた夢を思い出して、ため息が出た。
なんで気づいてしまったんだろう。気づかなければ、ただの幸福な夢のままで終われたのに。
そうでなくても、もう少し天気が悪ければ。雨でも降ってくれていたら、陽の光に起こされることも無く、長い夢を見ていられたかもしれないのに。
もやもやとした気持ちを抱えたまま立ち上がる。
乱暴に開いたカーテンの先は、憎らしいほどの晴天だった。
∕『行かないで』
10/24/2024, 3:26:54 PM