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「夢が醒める前に」



ああ、きっとこれは夢だ。直感的にそう思えた。
今私がいるこの空間は、城の一室のようだが、窓がなく、扉に鍵がかかっていた。そして、部屋の中には1人の少年が床に倒れ込んでいた。

その少年のは酷く痩せ細り、いくつもの打撲跡と切り傷が体の至る所にあった。私は、この空間にきた瞬間、彼に近寄り抱き抱えようとしたが、当然夢なので触れることは出来なかった。
私は彼のそばに座り、彼のことをもう一度見た。
私はこの子を知っている。だからこそ、今の私の無力さを恨んだ。傷付いている子供を救うことすらできない。これのどこが聖人だと言うのだろう。
これのどこが英雄であろうか。


罪悪感が胸を埋め尽くしている。情けなくて、もどかしくて、涙が出そうになった。その時だった。
彼が目を覚ました。
薄く目を開けて、辛そうに身体を起こす。辺りを見渡し、またここかという顔をした。
窓のない、扉が施錠された部屋に子供を1人。
ここは懲罰部屋のようだった。


彼が扉に向かって歩くと、さきに扉が開き、男が彼に捲し立てるように怒鳴った。
異国の言葉。私には理解できなかったが、それが酷い罵詈雑言いうことはわかった。
男はひとしきり言い終わると、彼の髪を掴み、部屋の奥へ投げた。驚き彼に近寄ると、咳き込み流血していた。
か細い声でただ一言、子供は言った


たすけて、ください
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎…、わた、しの、えいゆ、う



そこで目が醒めた。横を見ると、彼はまだ眠っていた。
あぁ、先ほどまで見ていたのは彼の過去のようなものだったのか。私は納得した。
彼の顔にかかっていた綺麗な金糸の髪を彼の耳にかける。顔を見ると、彼は泣いていた。
私は、彼を抱きしめるようにして彼の背中に手を伸ばした。


ごめんなさい、貴方を救えなくて。
貴方はこんな私のことを英雄だと言ってくれたのに。
幼子1人の願いも叶えることができない。

だから、今は、貴方の夢が醒めるまでは、

貴方が望んだ英雄として、貴方の横で眠らせて

3/20/2024, 2:10:53 PM