彩子は藤堂とマッチングする前に、やり取りを始めていた男性がいた。彼――八木橋とは朝一回、昼一回、夜二回といった感じでコンスタントにメッセージをやり取りしていたが、実際に会うまで時間がかかった。
口調は穏やかだが、奥手で少しネガティブ。彩子が色々聞き出して行く形で会話は進行した。
メッセージからその片鱗を感じてはいたが、外出にはほとんど興味がないようだ。デートの取り決めにおいて、これは非常に大きな問題だった。彩子もデート先のレパートリーは少ないし、積極的に誘えるタイプでない。連絡先を交換し、互いにお礼を送り会ったものの、今後やり取りが続く望みは薄い。
彼も同時進行は苦手で、現在は彩子としかやり取りしていなかったとのことだ。それが却って申し訳なかった。
八木橋との顔合わせを終えた後、藤堂から来ていたメッセージに返信する。
『そういえば今日、大学名入りのジャージを来た学生たちが電車に乗ってました。部活の大会でもあったんですかね?』
話題の展開に期待してみる。返ってくるのは日付が変わる頃か、もしくは翌日の昼か。
女心と秋の空とはよく言ったものだ。
マッチングアプリを始めて一ヶ月弱、この間に彩子の情緒は目まぐるしく変わっていた。
メッセージが嬉しいはずなのに、中身を確認すると途端に返信のプレッシャーに苛まれ、相手の反応速度が乱れると疑心暗鬼になる。
いつになったら私の心は休まるの?
あの時どうしたら良かったの?
私はどんな人を求めているの?
そもそも、私にパートナーを手に入れる資格はあるの?
彩子の問いは尽きない。
【終わらない問い】彩子4
10/26/2025, 1:30:51 PM