『赤い糸』
制服の取れたボタンを丁寧に縫うあいつの隣に置いてあるソーイングセット。横目に見えた赤い糸に俺は有名な言葉を思い出した。
────運命の赤い糸
もしあったとしても見えなきゃ意味がないし、俺自身は信じちゃいない……はずなのに、目の前のこいつと繋がっていたら、そう願ってしまったのは幼い頃からの腐れ縁を進展させたい気持ちがあったからかもしれない。
何気なく赤い糸へと手を伸ばし、俺の制服に触れる指を静かに見詰めると針を持っていない方の手を掴み、小指へとその糸を絡めて結んでみた。
何をしているのか分からないと双眸瞬かせて俺を見るものだから、思わず口元が弧を描いていく。
自分の手を見せつつ目の前であいつに絡めた糸の先を小指へ結ぶ動作に目を丸くさせ、俺と小指へ顔が交互に移る動きは少しばかり忙しなくて。そんな仕草が可愛らしいなと思えば俺は何も言わぬまま軽く笑ってしまう。
ほんのり赤に染まる頬を目にした俺は少しは意識してくれたのかと期待に胸を膨らませた。
6/30/2022, 12:17:30 PM