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『1年前』

まだ微かに涼しさを残す本を胸に抱え、坂道を登る。
図書館からの帰り道。
小学生の頃から、ずっと通ってきた道。


1年前は
ちょうど、自分の感情が消えかけていたことに気がついた時期だ。
自分の状況を自覚してからしばらくは、恐怖が付き纏った。
背の高いビルも、ネオンカラーも、電車の音も。1番怖かったのは人間で、人の気配がするものはなんでも怖かった。だからいつも、ノイズキャンセリングのイヤホンをつけていた。それだけで、自覚する前の自分に少しだけ戻れた。

自分の頭が考えてる事が、危険な事だという自覚はあった。
「うつ病から回復し始めている時期が1番自殺をしやすい。」
どこかで知ったその知識に納得した。
こうやって人は死んでいくのかと、麻痺した頭でよく考えていた。


どういうわけか今もまだ生きているけれど、不安定であることに変わりは無い。困ったものだと自分に呆れる。
「君が死んだら僕も死ぬから。」
君を死なせるわけにはいかなかった。
死なない理由なんて、なんでもよかったんだ。

6/16/2024, 11:39:54 AM