鈴蘭

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【宝物】

私の中には箱がある。私が持っているきらきらしたものを入れる箱。小さい頃から、きれいな蝶々や夕日、道端に咲いた花を入れていた箱。
でも、大きくなると、箱に入れたくないものも入れないといけなくなる。たくさん入れようとして、溢れてしまったから、きれいなものを捨てるしかなかった。入れたくないものを入れなくちゃ、怒られちゃうから、きれいなものを捨てるしかなかった。…捨てたくなかったけど。
箱に、きれいなものが少なくなると、世界が綺麗に見えなくなる。一枚ガラスを挟んだ先の景色を見ているように、全て他人事に感じてしまう。いつの間にか、楽しかったこと、好きだったこと、全部思い出せなくなっていて、無性にさみしくなった。
そんな思いを抱えながら、いつもの帰り道を歩いていたら、ふと、目に道端に咲いた花が目に入った。いつかの私が、箱に入れていたもの。時間が経っても、きらきらしたものは、きらきらして見えた。
私は変わっていなかった。私は忘れていなかった。それなら、まだ間に合うんじゃないか。もう一度拾い直しても。まだ間に合うんじゃないか。新しく探しても。箱が小さいなら入れ方を工夫すればいい。箱が足りないなら増やせばいい。その方法を私は学んだろう。大丈夫。まだ間に合う。自分を本当に見失ってしまう前に、また拾えばいい。
私の中には箱がある。私が持っているきらきらしたものを入れる箱。小さい頃から、きれいな蝶々や夕日、道端に咲いた花を入れていた箱。前は一つだったけど、今では二つになった。もうすぐ三つになる予定の、私の宝物を入れる箱。

11/20/2023, 10:40:52 AM