これが最後の恋だと思ったのに、と泣きじゃくる彼女から電話があったのが午前二時。
こちらは連日残業で、終電帰りがかれこれ何日続いているかという状態で、疲労はとうに限界突破。
ベッドに転がり今すぐ寝入ってしまいたい。
その欲求に抗えず、初めて嗚咽混じりにつらつら語り出す彼女の声を遮ってしまった。
「あー、うんわかった。来週の休み、日曜の夜なら時間取れると思うからさ。
その時聞くから、ゴメン。今日は勘弁して——」
言いながら眠ってしまったらしく、彼女の返事があったかどうかも覚えていない。
翌朝、メッセージアプリに彼女から
『もういい』
との一言だけが残されていた。
『ゴメン。仕事がキツくて本当無理だった』
と送り返したが、既読になることはなかった。
「いやマジで何なの、つーさ」
日曜日。
連絡がつかない彼女の代わりに、共通の学生時代の友人と居酒屋で呑んでボヤくと。
「へー、そんな話初めて聞いたわ」
枝豆を齧りながら友人は目を丸くした。
「あの子、秘密主義だと思ってたけど。君とはそんなディープな話してたんだ」
「え、そうなのか?」
聞いてくれるなら誰でもいいとばかりに捕まえて話すタイプだと思い込んでいたから、こちらも目が丸くなる。
「昔から聞き役だったぞ、俺」
「そうなんか。それじゃまあ——今回は二重に失恋したってとこかね、彼女的には」
最後の受け皿もなくしちゃって、失意のどん底かねえ、慰めにいってやったらどうよ、などととビールを呷って無責任に笑う。
「いや……、いいよ」
顔を顰めてやはりビールを飲み下す。
——グズグズ泣きながら一方的に語る彼女の声は、不快ではなかった。
語られる内容は、同意も同情もしかねたけれど。
「聞いてくれて、ありがとう」
最後に、そう言って泣き顔のまま笑う顔は、多分——好きだった。
「だって切ってきたのは、向こうだし」
都合良い聞き役も卒業するわ、と言い切ってジョッキを一気に空にした。
いつもより苦さを感じたのは、おそらく感傷のせいだろう。
これも失恋の一種かと、初めて彼女と同じ線上に立てた気がした。
6/4/2024, 6:54:28 AM