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優しさ

あの人に電話する。
これも優しさだから。

 今日も23時に電話が鳴る。もしもしと聞こえてくる声から遠ざかりたい。スピーカーにして、電話を自分から離れたところに置いて、物理的に距離をとってみる。
 「うんうん、それでそれで?」
 彼の話を聞く。もはやルーティンだ。仕事であったこと、面白かったこと。どれも難しい話で、半分くらい面白さはわかっていないけれど、それとなく共感してみる。
 「それは面白いね!」
 浅はかな言葉を並べて、自分なりに満足する。上手にできたなと。一通り話終わると、彼は時間の話に触れる。これも定型文だ。
 「もうこんな時間だね。寝なきゃね。」
 そうだね〜って言って、寝てみようと思うけどスピーカーから聞こえる画面のタップ音。おやすみって言っても、しばらく彼は寝ていない。見えないけどわかる。今日は何も話せなかった、今日は暑くて寝苦しい、そんなノイズが脳内を駆け回る。
 何時間か経って、彼が寝たであろう時間にそっと電話を切ってみる。ここからが私の時間。

1/27/2024, 10:57:41 AM