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変わらないものはないというけれど、
本当にそうだろうか?

変わらないものとして良い例は何かないだろうか。
暫し足りない頭を捻っていると、
学生時代の化学の教科書が脳裏に浮かんできた。

懐かしさに惹かれて教科書を手に取り開いてみる。
パラパラと捲れば懐かしい知識が──
全く出てこない。

パラパラと捲っていた手を止め、
じっくりと教科書を眺める。

あぁ、なんということでしょう。

写真はおろか、文字なんて一度も存在したことがないとでも言うのでしょうか、この脳内の教科書は。
──なんて、驚きの白さ。
こりゃ漂白剤も裸足で逃げ出すな。

そんな、くだらない事を思っていると
「原子」という文字の跡が微かに見えた。

「原子」
確か、ずっと変わらない性質があったような。

早速ググってみると、
──化学変化によって、新しくできたり、別の原子に変わったり、なくなったりしない。──と出てきた。

変わりゆくのが当たり前のこの世界でも
この世界を作る元は
変わることはないようだ。

また一つ賢くなった気がする。
…。
まぁ、何れはこの知識も
あの教科書の二の舞いになるのだろうな…。
いやいや、今度こそは覚えておこう。

ギリ筆跡が見えるだけとなっていた「原子」の文字を黒字でなぞり、ググった知識をそっと添えておく。

次開いた時は、少しだけ役に立つ教科書になるはずだ。
変わらないものがこの世界にある。
それだけで心強いではないか。

12/26/2023, 1:00:02 PM