愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐



これは夢だ。

思い立って頬をつねると痛みがない。うん、やっぱり夢だ。
周りの景色が物凄いスピードで変化してゆく。

おれはくるりと周りを見渡すと、あ、と声を零す。

そこには居た。母さんも最上さんも旧ボーダーの仲間だった皆も、そこには居た。

闇に濡れたこちら側と、柔らかな光に包まれるあちら側。ふと、あちら側には行けないのだと本能がいう。

光の中で、真っ赤な太陽を見つけた。太陽はこちらに気がつくと驚いた顔でおれの名を呼ぶ。

「迅」

おれは無意識に手を伸ばした。太陽も手を伸ばした。

光と闇の狭間でおれ達は指を絡め合う。離してしまったら、二度と会えないような気がして。

「嵐山」

真っ赤な太陽の名を呼ぶと、太陽は、嵐山はにこりと微笑んだ。その笑みは、現実の嵐山にそっくりで。これだけは夢ではなく現実だと思った。

「まだあっちには行かないで」

おれの言葉は、深い闇の中へと溶け込み、光が二人を包み込んだ。

12/2/2024, 12:00:37 PM