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紅茶の香り


リビングへ続く扉から零れる香りは貴方が好きなそれだった
今日も優雅に窓の外を眺めてるのかと足を進めると
予想に反して貴方はキッチンに居た

「あれ?何してんの?」

貴方はこちらを1度見て直ぐに手元に視線を戻してしまった
見てみろ、ということらしい

そこには何かの生地と思わしきものと
いつも貴方が飲んでいる紅茶の茶葉が入った缶

「…なにこれ?」
「紅茶と言えばイギリスだからさ」
「ん?」

未だ分からない私に、いいから待ってな。と言いキッチンから追い出されてしまった
それからルンルンと鼻歌を歌いながらガサゴソと。
バタン、と音がして、ピッピッと、よく聞くオーブンレンジの音がして
水の流れる音がした。
今頃皿洗いをしてるのだろう、相変わらず手際がいい。

水の音がやんで、ようやく私の時間

「で?結局何作ってるの?」
「秘密」

出来上がるまで教えてはくれないらしいが、香ばしい匂いと、それから茶葉の香りだろうか
それとイギリスだから、という言葉、これはきっと。

「スコーンだ!美味しそう!」
「たーんと召し上がれ」

口の中がパサパサになるのに、どうしてか食べたくなるこのお菓子
2人で作るようになってもう何年になっただろう
毎年作るわけでは無いけれど、ふと作ってあの日を思い出す
たまにあるこの日
この紅茶の香りがあの日を思い出させる

10/27/2023, 11:53:23 AM