ロイチ

Open App

モンシロチョウ

 一面の菜の花畑。
 抜けるような晴天。日差しも柔らかく、風も強すぎずに時折金色の海に吹いては、穏やかな波を作っている。
 なんて素敵な春の昼下がり。

 ――アレもそうだな。……あっちも、あっ向こうも。

 せっかくのGWだからとか、子どもよりも浮かれた親に連れられてきたのは花畑と小さな牧場。
 正直帰りたい。別にそんな長い休みでもないのに普通に宿題あるし、人多いし、渋滞はまるし、牧場はなんか臭いし、菜の花畑とか写真一枚撮れば十分だし。
 どうせつまんない顔しか出来ない息子なんか連れてこなくていいのに。今年はお隣さんも一緒にだとか、知らんし。
 母さんには悪いけど、楽しみもせずに息子は今、このスバラシイ景色の一つの蝶々を観察しては「あー、○ックスしてる」って思ってるよ。

「ねえ、宿題終わってる?」
「……終わってない」
「良かった。ね、帰ったらいっしょにやろ」
「一人でやれよ、あれくらい」
 やっぱ来なきゃ良かった。
 幼なじみとかいうニンゲンはうるさいし、肩に蝶止まってるし。
「見て、ほら、可愛い」
 その虫さっきまで○ックスしてたぞ。
「可愛くねえよ」
「えー、ひねてるなあ」
 触んなそんな事後昆虫。
「あっ行っちゃった」
「…………」
「あれ、どしたん。眠い?」
「車戻る」
「おばちゃんに言っとこうか」
「絶対やめろ」
「?」

 菜の花畑、青い空、白い雲、モンシロチョウ。あとお前。
 こんなキレイなものばっかだから、汚い気持ちになるんだ。
 俺は悪くない。 (了)

5/10/2023, 10:30:59 AM