ミキミヤ

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私の父は、研究者だ。医学の分野を研究しているらしいんだけど、詳しくは知らない。最近は何やら長く続けてきた研究が佳境に入ったとかで、職場の研究所にずっと行っていて、たまに家に帰ってきたと思ったら、すぐに自分の書斎にこもる生活をしている。文字通り寝る間を惜しんで働いているみたいで、娘としては体調を崩さないか心配なのだけど、父は気にせず楽しげに働いている。絶対身体がつらいだろうに、楽しそうに精力的に働く姿は純粋にすごいと思う。

一度、父に、今している研究について訊いてみたことがある。「そんなに頑張ってやるようなものなのか」と。そうしたら、父は言った。「この研究がうまく行けば、世界が変わるんだ。今よりも多くの人が苦しまずに済むようにできるんだ。そう考えたら、頑張れちゃうんだよ」と。そう言った父の目は、少年のようにキラキラしていて、未来の姿が見えているような目だった。きっと、父には、研究の先の誰もまだ見ぬ景色が見えているんだと思った。

父を見ていたら、私も、その景色が見たくなった。
だから、精いっぱいの思いを込めて「頑張ってね」って私は伝えた。私には、父の研究を手伝うことはできない。だから、こうして声をかけることくらいしかできない。この声が少しでも父の力になっていたらいいなと思った。
父は「もちろんだ!」って力強く頷いて、また仕事へ戻っていった。その背中に、早く父の見ている景色が現実のものになりますように、と強く祈った。

1/14/2025, 4:33:37 AM