「私は、君の心の羅針盤になりたいなあ」
なんて君が言うから、
「無理だよ」
と即答する。
【心の羅針盤は指し示す】
「ええぇー!」
「だって羅針盤ってあれでしょ。針がぐるぐる回って、行くべき方向を示してくれる」
「そう、コンパス」
「じゃあやっぱり、君には無理だよ」
「なあんでえ」
「羅針盤は、誰かにもらうんじゃなくて、自分の中にあるものだから」
……それに。僕は思う。
「そもそも、羅針盤の針がきちんと北を向くのは、地球が強い磁力を帯びてるからでしょ。羅針盤が自分の意思でそっちを向いてるわけじゃない。行き先を示すのは、羅針盤じゃなくて地球自身だ」
「じゃあ、私は君の地球になりたい」
「規模が大きくなった……」
もうなってるよ、とは言えなくて、引き寄せられるみたいに君の目を見て笑うだけだった。
8/8/2025, 2:09:15 AM