今日の闇は優しい。それというのも、満月のおかげだ。煌煌と輝く月影は、空ばかりでなく大地までも照らしてくれる。
甘い闇に浮かび上がるのは、凍てついた大地。遥か彼方まで続く、氷雪。極北の冬、地面は黒いか白いか、そのどちらかだ。
太陽は地の底に隠れたまま、出てこない。この終わらない夜——極夜においては、月と星だけが寄る辺となる。
若者はぐっと手綱を引いて、自らの飄鹿を止めた。飄鹿は素直に足を止め、低い声を漏らす。熱い獣の息は、瞬く間に白く凍えた。
若者は空を仰いだ。月と星の位置を見て、進むべき方向を確かめる。目印の乏しい雪原では、真っ直ぐ進んでいるつもりでも、徐々に進路から外れていってしまう場合がある。こまめに方角を確かめることは、闇と氷の中で生き抜くための術だった。
方向を見定めた青年は、飄鹿の腹を蹴る。たくましい蹄が、再び雪に跡を刻む。
本当に、よく晴れた日だった。その月の光に誘われるように、若者はふらりと家を出た。
光が恋しかったのかもしれない。太陽を、あのさんざめく光を追いかけていきたかったのかもしれない。竜のように。
けれど、若者は竜ではなく人間だ。太陽を追うなど、叶わない。目的もなく歩き回って、そして帰路に着こうとしている。
苦い気持ちで、若者は笑った。竜にはなれないと分かりきっているのに、魂の疼きには逆らえない。
「付き合わせて悪かった」
そう声をかければ、相棒の飄鹿は不満げに鳴く。
若者は、またしても苦笑した。
12/7/2025, 1:52:53 PM