半袖
俺の幼なじみは、本当にひとから虐められやすい。
「――なんで――よ」
「……ごめ、んなさ、い……」
ほら、また。
「またお前らか。こいついじめて、そんなに楽しいのか?」
今にも、バケツの水をかけられかねない状況に、一声をかける。
「……!!」
そいつらは、一目散に逃げてった。
「お前も、あんなのもっと上手くあしらえるようになれって、いっつも言ってるだろうが」
「だって……」
「で? 今日はなにでだ?」
「……まだ、長袖なのか、って」
はあ?
「お前それ、ついにネタ切れなんじゃねえのか……」
そもそも、そんなの本人の勝手だろう。
ぶつぶつといなくなった相手に文句を言っていると。
「わたし、だって」
「あ?」
「わたしだって、そろそろ半袖でもいい頃だとは、思う。けど……」
「けど?」
まるで、勇気を振り絞るように、こいつは言った。
「わたし、腕太いから。無理なの」
「……はあ」
なんだ、そんな理由だったのか。
あきれ顔の俺に、こいつなりに食い下がる。
「本当に、ほんとに。真剣に悩んでるの……!」
うーん……。どう言えば良いやら。
……あ、そうだ。
「ちょい、腕出せよ」
「え、なに――」
言いながら、問答無用に腕を引っ張る。
「――ほら。俺より全然細いじゃねえか」
自分の腕と、こいつの腕を見比べる。
「白くて、普通の細い腕だ。そんなに気にすることねえよ」
「そ、れは! あなたと比べたら当たり前でしょ!」
お、調子出てきたな。
「まあ、長袖のままも、半袖にするも、お前の自由だろ」
「そ、そうでしょ」
「また、呼べ」
「……え」
ぽかんとした顔。面白い。
「幼なじみとして、いつでもまた、駆けつけてやるよ」
そう言って、笑ってやる。
「……え。え?」
普通喜ぶとこだと思うのに、なにが気にくわないのやら。眉間にシワをよせ、こいつなりに、なにやら考えているようだ。
「……やっぱり、お前は面白いよ」
「はあ!?」
意味がわからない、と。今度は俺が、文句を言われることになった。
まあ、いいや。泣かれるよりかはいい。意外と言ってくるのも、こいつらしいし。
まだ、蝉の鳴く頃ではないが、それでもかなり。天気が良い日の、ちょっとした出来事だった。
5/28/2024, 10:21:06 PM