300字小説
身代わり人形
貴女に出逢って、私は生まれた。貴女に名付けられ、貴女の友達として傍にいるようになって、少しずつ塵が積もるように私の中に『私』が宿った。幼い頃はお母さんに揃いの服を着せて貰ったこともある。大人になった貴女は家を出るとき、私も連れてきてくれた。それが役に立つときがきた。
大丈夫。アレは鼻は効くけど目が悪い。きっと貴女と私を間違えて喰って満足して去るだろう。だから、貴女のお気に入りの服を一枚貰って行くわ。さようなら。
職場からの帰り道に黒い影に追われるようになって数日。夢の中で子供の頃からの友達だった人形のみよちゃんが私の服を羽織って出ていった。
辻に散らばった服の切れ端。みよちゃんは消え、影も消えた。
お題「君と出逢って」
5/5/2024, 12:42:17 PM