ミミッキュ

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"花束"

 この前治した患者が来て、小さな長方形の箱を渡された。その人曰く、この小さな箱は《フラワーボックス》らしい。
 リボンに括り付けられていた二つ折りのカードを取り出して開くと、万年筆で書いたような手書き風のフォントで【Thank you very much.】というメッセージが書かれていた。
──「いい」って言ったのに……律儀だな。けど、男に花敷き詰めた箱を贈るって……。俺が女だったら、もっとマシな反応できただろうな……。
 そのメッセージの下に細字の活字で、説明が書かれている。ドライフラワーを詰めたフラワーボックスで、手入れする必要は無いらしい。飾り方の例も幾つか書かれている。
 診察室に戻って、箱をデスクに置いて着席する。
──まぁ、中身は単純に気になるしな。
 リボンの端を摘んで引っ張って解き、蓋を開ける。
 対角線を境界にして二つの色の花が分けられていて、上部に青色の花が一種類と下部に緑色の花が二種類、小さな箱の中にたっぷり入っていた。
 まるで、ラッピングを飛び出したせっかちな花束だ。
 入っている花の名前も色別でカードに書かれていて、緑色の花は薔薇とカーネーション、青色の花は霞草と書かれている。
 花の色と中身のレイアウトが、ゲームエリアを展開した時に出てくるドラム缶を彷彿とさせる。何故この花と色のチョイスなのか不思議だが。
 けれど、とても綺麗なので、蓋を箱の底に重ねて、パソコンのディスプレイの横に立てて、ここに来た患者達にも見えるように角度を調整する。
「……こんくらいか」
 感覚で良い感じの角度にすると、出入り口に立って見え方を確認する。
「……ん」
 と、声を漏らして小さく頷く。
──花を飾ると、部屋全体が明るく見える。『男が花なんて……』って思ってたけど、性別関係なく花を見ると気分が明るくなる。
「さてと、ベッドメイキングの続き」
 その場でくるりと方向を変えて廊下に出ると、診察室の向かいの部屋に行き、患者用ベッドの整頓の続きに取り掛かった。

2/9/2024, 11:54:22 AM