「やりたいこと」
「おはようニンゲンくん!!!今日も精が出るねえ!!!」
おはよう。あんたはいつも元気だな。
「今日は昨日の残り物サンドだよ〜!!!コロッケとサラダを挟めば美味しくなるに違いないと思ってね!!!」
炭水化物に炭水化物……美味いのは美味いけどカロリーが。
「朝から元気をつけておきたくてね!!!」
今日もまたどこかに出かけるつもりなのか?
「まあね!!!ちょっとやりたいことがあるのさ!!!」
「ちょっくら本部まで出掛けるが、晩ご飯までには帰るつもりだよ!!!」
そうか。……そのことでずっと気になってたんだが。
「ん???」
なんで逮捕状を出されたあんたがこんな自由に動き回れるんだ?
「キミ、消されたいのかい?」
「……っていうのは冗談だよ〜!!!捜査に全力で協力しているのがちゃんと伝わって逮捕は取り消してもらえたのさ!!!」
「……まあ、けっこう色んな機能が制限されているわけだが!!!それでも全力を尽くすのがこのボクだ!!!とっとと解決して!!!真の自由を得ようではないか!!!」
「というわけで!!!行ってくる!!!」
あぁ、いってらっしゃい……。
朝から嵐が来たのかと思った。
やりたいこと……か。
あいつにはいっぱいあるんだろう。
……でも、自分には。
自分のしたいことなんて、正直あるのかないのかもわからない。
なんでだろうな。
そういえば。自分はちゃんと自分に向き合って来なかった。
自称マッドサイエンティストのあいつを見ているとすごくそんなことを思わされる。
やりたいこと。夢。自分。
何かと言い訳をして、そういうものに蓋をして目を向けなかった。
向けなくてもいいと思っていた。
どうせいくら欲しがったところで、なんにも手に入らない。
自分の求めるものどころか、当たり前のものすら手に入らない。
ずっとそう思っていたんだ。
人生なんて、いつかあっけなく終わるだけで。
でも、あんたと暮らす中で気付いた。
「なにが食べたい?」「やりたいことは?」
「一緒に行こうよ!」「助けたいんだ!」
明確な意思を持って、自分の求めるままに。
最初は面倒なやつだとため息ばかりついていたが、いつのまにか羨ましいと思う自分がいた。
やりたいこと。
……うん、すぐには出てこない。
でも、絵を描いてみたい、かな。
……前あいつに褒められたから。
部屋を探すと色鉛筆が出てきたので、これで描くことにしよう。
何を描こうか?
そうだな……試しにあいつを描いてみるかな。
ミントグリーンの綿飴みたいな髪。
虹色に光る瞳。
つきたての餅みたいなほっぺた。
……意外とうまく描けた。
まぁ、実物のほうが愛嬌はあるけど。
こういうのも、練習あるのみだよな。
あいつが帰ってくるまで、絵の練習でもするか。
6/11/2024, 10:32:48 AM