花筏

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【足音】※BL注意
夏の夜というものはどうも暑くて敵わない。
ここはひとつ、背筋の凍る話でもいかがでしょう。

昔昔のある夜、冷房なんぞない時代。とある男が夜道を歩いていた時のこと。
男「今日も商売は上々、ちょいと宣伝ついでに散歩でも行くかねぇ」


ぼたっ、べとっ、べとっ……
男「(ん?なんだ、後ろから誰かが歩く音がする。)」

振り返ってもそこは真っ暗

男「(なんだ?提灯を持たずに出歩いてる奴がいるのか?…気味が悪い。今日はちょいと早歩きで回るとする)」

スタスタ
ぼとっ、
タッタッ
べととっ、べとっ、

男「(ちくしょう、着いてくる。なんなんだ一体)」

男「帰ったぞ!」
女「おや、早いねぇ怠けてんのかい?」
男「ちげぇよ。後ろから気味悪い足音がずっと着いてくるもんだから早めに周って帰ってきただけさ。べとっべとっって。」
女「おや、後ろからついてくる足音かい?そいつはもしかしたら”べとべとさん”ってやつかもしれないねぇ」
男「なんだそれ」
女「なんでもよ道を歩いてると後ろを着いてくるっていう妖怪だよ。お先にどうぞって言うと消えるらしいよ。ただ、足音がべとっ、べとっって言うからべとべとさんらしいよ」
男「ほぉ、妖怪ねぇ。面倒なもんだが、明日も着いてくるってんならいっちょ唱えてみる価値はありそうだなぁ。」

〜〜~

男「ほいじゃ、行ってくるよ。」

スタスタ
……とっ

スタスタ
…ベとッ

スタスタスタスタ
べとっ、べとっ、

スタスタ
べとべとっ、

男「(今夜も着いてきたか、俺が止まると一緒に止まるな。よし、確かお先にどうぞだったかな。)」
男「べとべとさん、お先にどうぞ」
男「(これで行ってくれ。)」
……
男「(何も行かない。結局妖怪なんかじゃねぇじゃねえか。……だとしたら後ろを着いてきてるやつは一体何だ?妖怪の類でないのなら……)」

???「いやはや、すいませんねぇ怖がらせてしまったみたいで」
男「お前さんは、斜向かいの魚屋の!何をしてらっしゃるんですか?」
魚屋店主「いやぁ、すいません。最近ちょいと家内とやり合いましてねぇ。家にいたくないがために提灯1個使うのも勿体なくて少し明かりを借りるつもりだったんです。」
男「声をかけてくれればよかったのに。どうです、これから池の方を通って裏路地から油屋の方に行くんですが、ご一緒しませんか」
魚屋店主「いいんですか?ではお言葉に甘えて」
男「いやぁ、しかし家内と争いごとになっちまうと家に居ずらくてしょうがねえでしょうなぁ。」
魚屋店主「ええ、そうなんですよ。おかげで夜の方もご無沙汰でございます。」
男「ははぁ、それはそれはまた大変ですなぁ。」
魚屋店主「ええ。……あなたが相手をしてくださってもいいんですよ?」
男「……はい?」
グイッ、ドサッ
魚屋店主「あなたのこと、ずっと綺麗な人だと思ってたんですよ。男のくせに色白の肌に、身奇麗で、佇まいも女のようだ。1度味見してみたいと思っていたんですよ。ああ、ご安心を。あなたが後ろを使うのは初めてだろうと思いましてね。ちゃんと用意してきましたよ。最近海藻がよく取れましてねぇ。質のいい海藻から作ったいぶちのり。たっぷり用意してきました。作りすぎたもんで道中道に垂らしてしまいましたが。あなたの奥様もあなたの帰宅が遅くても、出歩いた先で話し込んで油を売っていると思うことでしょう。何も心配はいりません。ふふっ。楽しみましょうねぇ……」

〜〜~

客「最近、あそこの染物屋の店主。気をやっちまったみたいであんま外に出てこないみたいねぇ。今まで夜の練り歩きも積極的にやってたけど、今じゃすっかりなくなってしまって。美丈夫だったからまた来てくれると嬉しいんだけどねぇ。なんか知ってるかい?魚屋さんや」
魚屋店主「いやぁ、知りませんねぇ。今度新鮮な魚でも差し入れしましょうかねぇ。フノリなんかでも……」





8/18/2025, 3:48:24 PM