Kagari

Open App

きらめき

 通学路で、困った顔を浮かべて立ちすくんでいた子どもを放っておけなかったという。なんでも、落とし物が見つからなくて途方に暮れていたとかなんとか。

「お前いい奴だな」
「別に。なんか放っておいたらいけない気がして」

 私の弟は素直に感心しているようだが、褒め言葉を素直に受け取らないのはいかにも後輩らしい。私としては、「めずらしい」が第一の感想だった。
 言っちゃ悪いが、この後輩は人に対してあまり興味を示さないタイプだ。困っている人は助けなきゃ、っていう正義感が薄い。逆に興味を持った人にはグイグイいくけど、そっちのほうがめずらしいかもしれない。
 結局、その子の落とし物は、後輩も一緒になって探してからしばらくして、後輩が無事に見つけたそうだ。

−−ありがとう、お兄ちゃん!

 子どもはようやく笑顔を見せた。晴れ晴れとした笑顔だったという。

「で、お礼にこれをもらったと」
「子どもらしいよね。お気に入りだったらしいよ」

 後輩が私の手のひらに転がしたのは、宇宙を閉じ込めたような精巧な模様の入ったビー玉だ。
 陽の光にかざすと、星のように散らばった金粉がキラキラと輝く。これはたしかに「お気に入り」になるだろうね。

「お気に入りをくれたのか。よっぽど大事なもの落としたんだな」
「それが……ついさっきの出来事だったはずなのに、全然覚えてないんだよね。その子と一緒になにを探してたのか」

 おっと、急に不穏が顔を出してきたぞ?

「子どもって、男の子? 女の子?」
「……わかんない」
「見た目で判別しづらかったのか?」
「いや、そんなんじゃない。顔が全然思い出せなくて……」

 唸る後輩を横目に、私と弟は顔を見合わせた。
 いわゆる狐に化かされた系か? そういえば、後輩の通学路でそういうことがあったって過去話を聞いたような? ひょっとして同じヒト?

「別に悪いことされてねーみたいだし、本当のお礼なのかもな」
「いずれ木の葉に変わったりして」
「それはそれで手が込んでるな。一周回って面白いわ」

 このきれいなビー玉が次の日に木の葉になったとして、後輩は腹を立てるような奴じゃない。私たちだって残念に思うことはないから。
 徐に、弟がビー玉を覆うようにして手を重ねてきた。

「バル−−」
「言わせねえよ」



(いつもの3人シリーズ)
(最近やってましたね)

9/4/2024, 11:53:06 AM