木枯らしが鳴くと、枝の上で色をなくした木の葉がいっせいに渇いた音を立て始める。
靴底から這いあがる冷気に身を縮こまらせて歩いていた俺は、ふとその音に足を止め、街路樹を見上げた。
ずいぶんと葉っぱが落ちている。
今年ももう、終わりが近いのか。
時の流れの速さを思い出し、ゆっくりと目を閉じる。
10年前、大病を患った。
体調のおかしさに気付きながら、特に理由もないまま後回しにした結果だった。
すっかりと気落ちした俺は、病室の窓から毎日木を眺め、『あの葉っぱが全て落ちたら俺は……』なんて本気で思っていたが、治療を重ね、今がある。
別にやりたいことなどなかった。
ただ、なんとなく生きていた。
だが、全てを失いかけて、この世の尊さを知った。
あの経験がなければ、木枯らしの音に耳を傾ける俺はいなかっただろう。
今も、やりたいことなど見つかっていない。
ただ、生きる。
それがどんなに難しくて、どんなに尊いのかを知っただけだ。
だけど、そうだな……
少しだけ人に優しくなった気がする。
だって、ほら。
目を開けた先にいる老婦人が重そうな荷物を抱えながら、大変そうにしているのが見えるんだから。
以前は見えなかった。見ようともしてなかった。
「よぉ、おばあちゃん。何か手伝おうか?」
俺がそう声をかけると、老婦人は驚きながらも、嬉しそうな光が目に宿る。
ああ、今日もいい日だな。
1/17/2026, 7:49:46 PM