テーマ:ぬるい炭酸と無口な君
お風呂上がり、冷蔵庫をあける。
中に入っていると思ったコーラが見当たらない。
キッチンの方をみると、半分くらいにまで減った1.5リットルのコカコーラが置かれていた。
コーラに手を当てると、既にぬるくなっており、水滴さえ付いていなかった。
食器棚からガラスのコップを取り出し、コーラを開ける。プシュッと気の抜ける音が弱々しく鳴った。
コップの8分目ほどまで注ぐ。
それに口をつけながら、キッチンからリビングを見た。
リビングでは、寝巻き姿の同居人がソファでくつろぎながら深夜のバラエティ番組を見ていた。
同居人の膝の上にはいつものように猫がのっており、コーラを飲む僕に二つの金の瞳が向けられていた。
コーラはほとんど炭酸が抜け、ただ甘味料の甘さだけが舌の上にべたっと張り付いた。
「なぁ、飲み物を出しっぱなしにするのやめろって」
そう声をかけると、テレビから目を離し、のろのろとこちらを向いた。猫の背を頭から尾にかけてゆるりとなぞると、膝に乗っていた猫はぴょんと飛び降りた。彼の足に体を一度擦り付けると、テレビ横のキャットタワーへ向かった。
彼は悠然とした仕草で立ち上がる。柔道をしていた名残の、がっしりとした体格は何をしても様になった。
何も言わずに俺の横に来ると、キッチンでぬるくなったコーラを手に取って冷蔵庫にいれた。パタンという冷蔵庫の閉まる音がしたが、人の動く気配がなく、ちらっと冷蔵庫をみると、彼は冷蔵庫のそばに立って俺をじっと見ていた。
幼馴染で付き合いは長いが、何を考えているのかよくわからない。共通の友人たちからは、犬っぽいと称されている彼だが、俺的にはなんとなく猫っぽいなと思っている。近づいたら離れるくせに自分からは近づいてくるところとか。彼から目を離し、キャットタワーで寝そべる黒猫を見ながらそんなことを考えていた。
「悪かった」いきなり耳元で声がして、俺は思わずのけぞった。しかし、いつのまにか近づいていたこの男は俺の腰に手を回しており、距離は依然として近いままだった。
表情ひとつ動かさずじっと見てくる彼に落ち着かない気持ちになる。とりあえず離れてほしくて、
「わかったわかった」と腰に回された手をばしばしと叩く。しかしまるで意に返さない様子で、俺の頭に鼻を埋めた。
「悪い」ともう一度言うと、猫の背をなでるように、俺の頭に手をやった後、自分の部屋へ去って行った。
その背をぼんやりと見ていたが、テレビの音でハッとし、「おい、テレビ!」と声をかけたが彼が戻ってくることはなかった。
8/3/2025, 11:27:26 PM