ミミッキュ

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"あなたがいたから"

「もうそろそろ終わるか?」
 CRの医師控え室で、もうそろそろ読み終わりそうな文庫本を読んでいる飛彩に問いかけてみる。
「あぁ。……あと二、三ページだ」
 頷いてから今読んでいるページの後ろのページ数を数えて、残りのページ数を答えた。
「んじゃ新しいの買いに行くには丁度良いな」
「そうだな」
 そう頷くと、傍らに置いていたカップを手に取って中のコーヒーを啜った。
「そろそろ小説を仕舞う本棚を増やそうかと思っている」
「あぁ……。そういやだいぶ増えたよな。お前の部屋の本」
 最初の頃の飛彩の部屋と、この前訪れた時の飛彩の部屋を思い出す。
 最初の頃は医学書や文献ばかりだった本棚に、少しずつ小説が増えていき、小説のみを納める本棚が置かれて、この前訪れた時にはその本棚があと数冊で埋まりそうだった。
「お前のおかげだ」
「は?」
 何の突拍子もなく言われ、思わず声が漏れた。
「お前を知りたいという思いをきっかけに読み始めた」
「お、おぉ」
「お前がどの言葉を選ぶのか、何となく分かる」
「あっそ……」
 少し恥ずかしくなって、ふい、と顔を逸らす。
「それだけじゃない。知らない漢字や言葉がまだあるのかと思い知らされた」
「まぁ、小説読んでるとたまに知らねぇのが出てくるよな」
「それを調べる度に、自分の語彙が増えていく気がして面白い」
 そう言う飛彩の横顔は口角が綺麗に上がり、目が輝いていた。
 その顔に自身もつられて口角が上がる。
「俺に小説を教えてくれて、ありがとう」
 急にこちらを向いて、微笑んだ。思わず心臓が跳ねる。
「う、……るせぇ」
 また顔を逸らして、今度は照れ隠しの言葉が出る。
 そして横から聞こえた小さな笑い声を聞きながら、自身の傍に置いていたコーヒーを啜った。

6/20/2024, 10:59:50 AM