お題:花束
突き抜けそうなほど青い空の下で、こちらに向かってカナタが花束を差し出す。私はなにも言えなかった。言ったところで今のカナタにはなにも聞こえないだろう。
額に汗が浮かび上がるほどの暑さの中、カナタはきっちりワイシャツを着ている。私相手ならもっとラフな恰好でいいのに。それでも彼なりに考え抜いた服装だと思うと、いろんな感情が混ざりあって口元が緩む。そのままカナタはあるべき場所へと花束を置いた。私はそれを見下ろす。鮮やかな原色と白色の花がいくつも束ねられている。
花束をもらったのはこれが初めてだ。
今までカナタからプレゼントをもらったことはある。ただ、ここまで綺麗だと感じることはなかった。花なんて飾るだけで実用性はないと思ってたけど、案外悪くない。
嬉しさのあまりこのまま空の高いところまで飛べそうな気がしてくる。私とは対照的にカナタは顔をうつ向かせていた。下から覗き込んでやると、眉根をぎゅっと寄せてなにかを耐えるような表情をしている。
そんな顔しないでよと思ったけど、私がカナタと同じ状況だったらきっと似たような面持ちしかできないだろう。
軽く飛んでカナタの前にある灰色の石に腰かける。足をぷらぷら揺らすと、透けた足越しにカナタの頭が見えた。
「死ぬ前に好きって言っとけばよかったなあ」
口にするけど私の声はもうカナタに届かない。
蝉の鳴き声に紛れてカナタが声を押し殺してるのがわかる。
うつ向いたカナタの頬からいくつも雫が垂れて、足元に濃い染みを作った。
2/10/2026, 8:32:34 AM