川柳えむ

Open App

 幸せとか、そんなものは知らないし、必要もないと思っていた。

 ずっと独りでいた。孤独が好きだと思っていたから。
 誰かと一緒なんて、鬱陶しくて、面倒臭い。そして、そんなものを敢えて好む奴とか。
 俺には理解なんて出来なかった。

 ある晴れた日だったと思う。
 誰かが、隣に座った。楽しそうに、話し掛けてきた。

 誰だよ。こんな風に話し掛けてきて。
 俺は、望んでいないのに。

「怖いの?」

 唐突にそいつが言う。俺を見て、微笑んで。

 怖い?
 何が怖い? 何で怖い?
 俺が何を恐れているって言うんだ。

「本当は、独りが怖いくせに」

 ――違う。

 俺の戸惑いなと気にせず、そいつはそのまま続ける。

「いつか訪れる別れを恐れているんでしょ? 最初から出逢わない方がいいって。そう思っているんでしょ? だから、独りがいいって思い込んでいる」

 ――恐れ?

 一緒にいる事で、人の温もりを知ってしまって。
 でも、いつか必ずやって来る別れを。
 俺は――。

 ――いや、本当は知っていた。
 本当は孤独が好きなんかじゃなくて、本当は孤独を恐れていた。
 だからこそ、敢えて孤独でいたんだ。

「恐れる必要はないよ。別れの代わりに、また、新たな出逢いが待っている筈だから。今、この時のように」

 そしてそれから。
 孤独が好きじゃない俺の隣に、幸せを知らなかった俺の隣に。
 そいつはずっと変わらず、座っている。

 孤独の代わりに幸せを運んできてくれた。
 幸せとは何かを教えてくれた。


『幸せとは』

1/5/2026, 9:38:16 AM