『ススキ』
それは満月が水面に反射してより一層美しく輝いていたある年の十五夜のことであった。
私は、仕事でまとまった休養が取れたので、それを利用して郊外の実家に来ていた。
その年の十五夜は、天気もよく、例年よりも月が良く見える年だったので、私はそれを聞きつけ、独り湖岸を歩きながら、美しい月が出るのを待っていた。
辺りには、穂が黄金色に染まるススキが群生している。
湖岸をしばらく歩いていると、若い女性に声をかけられた。
「こんにちは。月、綺麗ですね。」
女性は恐ろしいほどに綺麗なひとだった。髪がススキの穂と共になびいて、銀色に輝いていた。
「ええ。十五夜ですから。今年はとても綺麗な満月が見れるということで、ちょっと来てみただけなのですが。」
「珍しいですね。最近はここの湖でも人を見なくなりましたから。」
郊外の過疎化が進行し、この湖に来る人も居なくなってしまったのだろう。
昼間だというのに、町の神社にも、商店街にも、人の姿はないなんてことがザラにあるらしい。
「ススキも枯れたら、もう冬です。」
女性は独り言のように、哀しさを纏った声をあげた。
「冬支度、ですね。気が乗りませんが。」
「そうですか?案外いいものですよ。冬と言うものは、自分が一番大事にされるから。」
「はぁ、そうですか。」
「貴方にはわからないですよ、ずっと。」
「それは、どういう訳で?」
突然風が吹き、女性は狐に化かされたように消えた。辺りは、月に照らされ、より美しく映えていた。
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4作目。月の話です。
11/10/2022, 1:39:09 PM