頭上に広がる濃い闇色に、丸い黄金色が浮かんでいた。私は住宅街の中にぽつんと存在する小さな公園の、その敷地に設置されたブランコのうちのひとつに腰掛け、夜空を照らす唯一の光源をじっと見上げていた。辺りには私以外の人の姿は見えない。まるで自分ひとりだけが静寂に包まれた夜の世界に、取り残されたみたいな心地がした。
何だか不思議な解放感に満たされたような気になって、今なら長年この胸に眠っていた想いを、こっそりと打ち明けても許されるような、そんな気持ちが何故か湧いてきた。私は念のためもう一度だけ辺りを見回して、誰もいないことを確かめる。両手を合わせて指を組み、そっと目を閉じて呟いた。
「──────」
少しくぐもったような声になってしまったけれど、生まれて初めて言葉という形にした私のかけがえのない想いは、夜の世界に吸い込まれるようにして溶けていった。
私は組んでいた両手を解いて顔を上げる。私の様子を見守りながら、変わらず夜闇を照らし続ける優しい月に向かって、しーっと人差し指を一本、自分の顔の前に立てて告げた。
「お願いだから、ここで私が呟いたことは秘密にしてね」
あなたと私、ふたりだけの約束だよ。
【月に願いを】
5/26/2023, 11:24:44 AM