ののの糸糸 * Ito Nonono

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No.14『営業スマイル』
散文 / 掌編小説

 手のひらに吐き出した息は白く、そして暖かい。つかの間の小さな幸せを味わったわたしは、営業スマイルを浮かべ、
「クリスマスケーキはいかがですかー!」
 アルバイト先の店先で声を張り上げた。

 クリスマスケーキの売り子。それがわたしの短期のアルバイトだ。短期というか今日だけなのだけれど、一日でもそれなりのバイト代をもらえるのは有り難い。

「さぶ……」
 ただ、このカッコだけはどうにかならないか。同じアルバイトの男の子は普通のサンタの格好なのに、わたしだけミニスカートで胸元が大きく開いたサンタコスだ。多分、顔だけで選ばれたんだと思う。バイト代も男の子より多かったが、それは性を売っているようで最初は少し戸惑った。

 ホールケーキを買ってくれた家族連れの小さな女の子が、雪が降るといいのにねと笑った。雪を待っている彼女には悪いけど、雪に降られたらとても困る。
 ショートケーキをひとつだけ買ってくれたサラリーマンのお兄さんは、そっと使い捨てカイロを手渡してくれた。クリスマスイブにアルバイトをしているわたしには、サンタさんからのプレゼントより嬉しかった。だけど、わたしが返せるのは営業スマイルだけで……。


お題:雪を待つ

12/16/2022, 8:29:50 AM