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テーマ:「柔らかい雨」

ぽつぽつと、音が聞こえ始めた。
本来であればこの後に、ザブザブというような喧騒や、ボタボタというような振動が続くのだろう。
ただ、今日の音はそのままだった。

…精々、その天候を名乗るために最低限必要なだけの勢いをともなった、
不協和とも、調和とも判断のつかない純粋な水と土との触れ合いを、
私はじっとその場で、聞き続けた。

そのうち、波を思い出した。幼い頃、浅瀬の中から見た海面の波を。
揺らめく視界の中での、全身で水に触れ合いながらの、自然な態度のそれは、
砂で立ってみた時よりも、神秘的で、違って見えたのを思い出した。
そしてそれが、雨を、ほんの少し暖かく感じさせた。

そろそろ止むだろうな、と感じた。
それが、時間のせいなのか、温度のせいなのか、思い出のせいなのかは、分からない。
ただ、実感だけはあって、
気がつくと体の準備が出来ていた。

数分後、雨はやんだ。
ほぼ同時だったそれに、
感謝とも、寂しさとも、愛しさとも、
なんとも判別できない感情を抱えつつ、
私は、漸く帰路についた。


多分、包んでくれていたのだろう。

11/6/2024, 5:03:36 PM