『流れ星に願いを』
流れ星に願いをかける。
願う内容はいつも同じ。
言い慣れた言葉を三度繰り返す。
「世界平和、世界平和、世界平和」
言い終わるよりも先に流れ星は消えてしまう。
未だ一度も成功していないので、もっと早口の練習が必要かもしれない。
「世界平和って……」
隣を歩いていた新人が呆れた顔で私を見ている。
失敬だな、君は。
「世界とは自分が認識している人間社会全体という意味がある。つまり世界平和を願っておけば、大抵の願いをカバーできるのだよ」
「あーハイ、そうですね」
新人の呆れ顔が戻らない。解せぬ。
「そんな事よりも、君はよかったのかね?」
「ん、何がです?」
「星に願いをかけなくて」
「いいですよ、別に。今の現状に、とりあえず不満はありません」
「君は欲がないな」
はは、と乾いた笑いをする新人。
今どきの若者は、あまり希望を持たないものなのかもしれない。
「さて、そろそろ時間かな」
「そうですね、そろそろの予定です」
新人がリストを確認する。
その後の処理も簡単に済ませるよう、予め用意しておいた場所へ潜む。
「いやー何度見ても鮮やかなもんですね」
「君も慣れれば、このくらいは容易くなるだろう」
処理に使って汚れたナイフを丁寧に磨く。
はやめに汚れを拭いておかないと、こびりついてなかなかとれなくなってしまうので注意が必要だ。
「じゃあ自分、後処理班呼んできますんで、ここお願いします」
「あぁ」
同僚が少し離れた場所で、電話をかけ始めたのが見えた。
「ふぅ」
かるく現場の汚れがないかを確認し、最後に地面を見る。
急所を一突きし、血が飛び散らないようにブルーシートで巻かれたまだ温かい死体。
今日も上々の出来だ。
はやく新人もこれくらいの仕事が出来るようになってもらわないと。その為の教育は、と辺りを見張りながら考える。
「後処理班まもなく到着だそうなので、もう直帰でいいそうです」
「うむ、了解した」
星空の下、二人で閑静な住宅地から駅方向へと進みはじめた。
4/25/2024, 1:18:18 PM