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夜の中で息を吐いた。白く、凍えて見える。
指先は冷たい。手袋を持ってくるべきだった、と思う。
耳当てはなぜか忘れなかったから、耳はあたたかだ。
頬は痛いくらいの冷気に触れている。
目が慣れるまで、もう少し。
指先に息を吹きかける。ほんわずかのあたたかさで気を逸らす。
暗がりに目を凝らしている。
夜の山はあんまりにも暗く、夜と同化している。どこが山か空か、わからない。
しばらく目を凝らして、小さな白い点が浮かぶ辺りが、空なのだとわかった。
山に光るものはないから。

「星は変わらないんでしょう、ずっと」
「…星も変わるよ。あれはずっと昔の光で、もしかしたら今はもう、あそこに星はないかもしれないらしい」
「星ですら、永遠じゃないってこと?」
「まあ」
「現実って、ものすごく厳しい」
「どうだろう」
「何が?」
「変わらないことって厳しいのかなぁと思って。変われないことの方が厳しいような気がする」
「そう?」
「だって、どんな辛いことも、悲しいことも、ひとりぼっちなことも、永遠になる可能性があるってことでしょ」
「まあ、そう言われれば」
「永遠がないってことは、どんどん変わっていくってことで、変わっていくってことは、今の最悪も最低も最弱も、最小も変わる可能性があるんだ。必ず。」
「最悪も最低も最弱も最小も…終わるかもしれないとかいいたい?」
「そう思った方が気が楽だよ。終わりがないのなんて、つらすぎる」
「どうだろう…」
「この寒さの中での、星空観測だって、いつかは終わると思った方が、集中できない?」

確かに、今、ここはとても寒い。

「変わらないものはない」
「すべては変わる」
「必ず」
「すべては終わる」
「きっと」



12/26/2022, 12:02:44 PM