かたいなか

Open App

私、永遠の後輩こと高葉井は、先日、まさかの「推しに認知される」という奇跡に遭遇した。

あの日の景色はよく覚えてる。
私の推しは一般的、常識的に、「ゲーム内のキャラクター」と認識されてるけど、
実はその推しが、普通に現実に存在してて、普通にゲーム内どおりの仕事してて、
それで、その推しの、職場の場所を知ってる人に、今年、たまたま会えた。
あの日の景色は、本当に、よく覚えてる。

推しの職場に連れて行かれて、
推しの職場をあちこち歩いて、
推しカプの左側が居て、推しカプの左側と言葉を交わして、私が過呼吸になっちゃって、
それから、それから。
これまで推しじゃなかったけど推しになったキャラクター、もとい女性とは、
なんだかんだで、食事して、少し仲良くなった。

推しは「世界線管理局っていう架空の職場で勤務してる架空の人物」のハズだった。

「ゲームキャラだと思ってた推しが実在する」、
「ゲームの舞台だと思ってた職場が実在する」。
まさかの状況を、私は経験した。

その景色が忘れられないせいで最近私の仕事が少し、いやドチャクソに、手につかない。

「高葉井ちゃん。手が止まってるわよ」
「はい副館長……」

「高葉井ちゃーん、そろそろ俺と交代だよん」
「はい付烏月さん……」

「高葉井。おまえ、魂の輝きが強まりましたね。
恋でもしましたか。うふふふふ」
「先輩せんぱい館長出没警報お願いします」

推しが居た。 推しが、居る。
推しカプの左側が、現実に、存在する。
推しカプの左側さんは、私を認識してて、私はその左側さんと言葉を交わしたし視線も合わせてる。
その景色を思い出しただけで、私は頭がポーっとして、顔がほてって、
仕事が、手につかなくなる。

左側さんと会ったあの風景は、それだけ私にとって、心と魂の全部だった。

で、何が言いたいかというと、
私が先日出会ったのは推しカプの「左側」で、
実は「右側」は、左側さんより更に早く、実は既に会っていて、向こうからも認知されてたんじゃないかという疑惑が浮上してるってハナシで。

というのも右側さんに声も顔も姿も完全に似てる人を今まで「右側さんの神レイヤー」と思ってて。

私が自分の仕事として、私立図書館の閲覧室で受付窓口に座ってたところ、
丁度、「右側さんの神レイヤーさん『と、個人的に認識してたひと』」が来館してきたから、
先輩に窓口を変わってもらって、神レイヤーさんに、先日「推しカプの左側さんと会った」っていう景色のハナシをしてみた。

「――と、いうことが、ありましてですね」
「ふむ、なるほど?」

もしかして、あなたもコスプレイヤーじゃなくて、
実は、本当に、本人だったりするんですか。
神レイヤーさんというのは、完全に、私の思い込みだったんでしょうか。
私はそんな意図をもって、右側さんの神レイヤーさんを、チラッと見た。
「お前が聞きたいことはだいたい分かる」
神レイヤーさんはそう言って、小さくて長いため息を、ひとつだけ吐いた。

「ツバメから何か聞いたか」
「ツー様、 ツバメさん、」
「お前が言うところの、『実在したゲームキャラ』だ。オシだったか」
「分かってます、分かってます。推しカプの、左側です。 なんにも聞いてない気がします。

神様、神レイヤー様、あなたは、誰ですか。
本当に、ほんとうに、実は、本物のルー部長……
私の推しカプの右側の、ルリビタキ部長だったり、するの、ですか」

「……」

私の推しの右側の神レイヤーさんは、再度ため息を吐いて、頭をガリガリして、私を見て、
「ひとつ、確認したい」
淡々と、言った。
「おまえ、ツバメとは、普通に話せるようになったのか。 つまり、例のあの、なんだ、オシ中毒?」

「過剰な推し摂取による急性尊み中毒ですか?」
「それは、大丈夫なのか?」
「ツー様は、もう、だいぶ大丈夫になりました」
「そうか」

なら、大丈夫だな。
神レイヤーさんは、そう言って、私をよく見て、
それで、それで……

「てっきり勘付いてると思っていたがd

おい、おい、高葉井、おい!
だいぶ大丈夫、じゃなかったのか!!
しっかりしろ例のトートミ中毒か!!
高葉井!高葉井ー!!」

7/9/2025, 3:34:38 AM