自己肯定感の低さは元からだろうか、それともどこかのタイミングで撒かれた種が芽吹いてしまったのだろうか。
どちらにせよ除草剤も効かぬ疾患ならば仕方が無いのだと思った。
遠くの席で静かに虚空を見つめている不細工な横顔を見た。
その毛量の多く乱れた髪が覆う後頭部めがけて誰かが消しゴムを投げつけた。
また始まった、続いて筆箱やらノートやらが当たり、彼女のメガネがずれた、やがて落ちる。
途端に、やはり、好きなのだと悟る。
だがそれは純愛でもなんでもない吐き気を催しかねないような愛憎混じりの執着でしかない。
きっと、口に出さぬ方が良い愛もあるのだろう。
救世主シンドローム。若しくはメサイアコンプレックス。
彼女を愛しく思うのはこれの所為だろう。
自分は苦しむ他人を救うことによって満足感を得て自己を肯定する、どうしようもない屑なわけで、彼女への愛は本物でもなんでもない。
他人を利用することしか考えない自分が、きっと世界一救えない。
彼女の席に駆け寄り、虐める輩を追い払ってやった。
クラス内で真面目な学級委員長役をしていたおかげか、彼らはあまり反抗してこないような気もする。
単に面倒臭がられているだけかもしれないが。
「ありがとう」と言われた。
掠れたか細い声は、とてもじゃないが耳障りで厭な気持ちになった。
だが同時に、その甘美な五音の響きに恍惚を誘われる。
感謝を述べられる度に、自分は生きてても良いのだと思う。
こんな自分でも存在価値はあるのだと、誰かに求められているのだと、あの一言だけが希死念慮を制御してくれるから
三十六作目「secret love」
9/3/2025, 1:48:05 PM