アリア

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おーいそこの人。
そんな風に急に声をかけられ辺りを見渡すと
手を振る短髪のお兄さん。
何か出店をしているのか屋台を構えていて
恐る恐る近づく。


「いらっしゃい!」


ニコニコ笑うお兄さんにどうもと返して
何に出してるんだろうと品物を見る。
そこには様々な時計。
デジタル、アナログ、懐中、砂時計。
本当に様々な種類があった。


屋台で時計屋なんて珍しい。
出張的なものかなとそれ以上は特に気にすることはなく1つ1つ魅入られるようにじっくり見ていた。



そんな中木彫の砂時計が目に入る。
雑貨屋などでも売ってるのを見たことはあるが
手にする事も無ければ目を奪われることなんて普段なら無かった。



「お、良いの見てんねぇ」
「あの、この砂時計は?」
「それは過去でも未来でも行ける砂時計」


あ、やばいやつだった。
この店は良くない、そう思って後退りをする。
しかしそれを目敏くお兄さんは気づいて、待った待った!と目の前に立ち塞がる。



「…怪しすぎますよ」
「まぁそうなんだけどさ。
その砂時計が気になったってことは願いがあんだろうなって」


そんな流れ星じゃあるまいし。
インチキやってるのかな。
詐欺とか。


「俺もね、変えたいものがあんのよ」


だからその砂時計欲しかったんだよなぁ
そうぼやくお兄さんに眉を寄せる。
こんな立ち話をしてる暇なんてないのに。


「君、この砂時計貰ってくんないかな?」
「はい?いらないですよ」


どうせ高額で請求されるやつだ、そう思って
首を振る。
そう言わずと、とお兄さんは砂時計を手にすると無理矢理手に持たせた。



「ちょっと!」
「耳澄ましてみ?」


文句を言おうと声を荒げる。
しかしお兄さんの言葉により音に意識を向けてしまった。サラサラと綺麗な音で思考が停止する。
砂時計の中の砂は上から下にと落ちていく、上段にはもうそんなに無くてボーっとそれを見つめる。


「うんうん、じゃあそれをゆっくりひっくり返す」



言われた通りひっくり返すと意識がグワンと歪み立っていられなくなった。
なんだろう、眠くなってきた。



「そう良い子。
そのまま眠って



母さん達をよろしくな」




最後に聞こえてきた言葉と優しい声にハッと手を伸ばしたがお兄さんは首を降ってじゃあなと言っていた。



意識はそこで途絶え次に目を覚ますとそこはどこかの部屋。ぼんやりと辺りを見渡すと一つの棺。



「…え」


棺の横には遺影があった。
そこに写っていたのは意識を失う前に見た
時計屋のお兄さん。



…いや、違う。
時計屋の知らない人じゃない。



お兄ちゃんだ。
交通事故だった。
先日葬儀も終わりあまりの辛さに忘れたくて死にたいなとそう考えてた。



夢として出てきたお兄ちゃんは
生きてくれ、その思いで砂時計を渡したんだろう。



変えたいもの、それは
自分の命だった。


死のうとするな、って。



涙が出た。
もう会えない兄とデカい責任の重圧に
押し潰されそうだ。


それでも大好きな兄に助けられた命
大切にしなきゃいけない。


遺影に拳を突き出して
ゆっくり頷いた。


「任された」


そう言うと遺影の中の彼はフッと笑った気がした。





お題【砂時計の音】

10/17/2025, 1:43:59 PM