【君と最後に会った日】
スマホの小さな画面の中で、君が朗らかに笑っている。日常を切り出しただけの何の変哲もない動画を、もう幾度見返しただろう。
『ねえ。次の土曜日に、一緒にさ――』
何かを告げかけた君は、僕が動画を撮っていることにそこで初めて気がついて、わざとらしく唇を尖らせた。
『もう、勝手に撮らないでよ。今日、化粧も全然してないし』
別にそんなの気にしないのに。僕の声が画面の外から響くのを最後に、動画はぷつりと止まる。ああ、これから訪れる未来を知っていたなら、もっとちゃんと撮っておいたのに。
突然崩れ落ちた君の身体。救急車のけたたましいサイレンの音。その全てが僕の記憶に色濃く焼き付いて離れない。
君がもう、どこにもいない。その現実から目を背けるように、君と最後に会った日の光景を僕は無心で再生し続けた。
6/26/2023, 1:07:19 PM