この日になるといつもは寄りつかないジャッキーは、あたしの元へやってくる。
時計の針が三時になろうとする頃にやってきては、居心地の悪そうにソファの端にちょこんと座っている。
「あんたぁ、元気にやってんの?」
「……。」
「あたしゃ最近腰が痛くってねぇ。手伝ってくれないかい」
そう言ってみると、ジャッキーはおずおずと窺うように顔を覗かせて側へきた。
毎月一度だけこの家ではパイを焼く。
中身は日による。りんご、ブルーベリー、洋梨、桃、グラタンみたいにすることもある。
ジャッキーはパイが好きらしい。
けれども、あたしのことが怖いらしい。
なんかやったかね。あたしゃ、何も覚えとらんがね。
この家の短針と長針が重なったら、ちょうど街にある時計塔の鐘がなった。
焼き上がった。
「ほれ、パイを出しな。分かるだろ」
ジャッキーは慎重にオーブンから取り出し始める。
慣れたもんだ。あたしより動きがはやい。
ナイフを持って切り分けてやると、先ほどまでとは打って変わって瞳をキラキラさせておる。
「あんたぁ、自分でパイ焼けるだろ」
「……こんなに美味しくは焼けないよ」
はぁ、うまいこと言いやがって。普段は一言も話し相手になってくれやせんのにから。
一人きりの老婆はあんたのためにまだまだ生きとらんといかんかなぁ。
9/28/2025, 10:57:28 AM