バレンタイン
言葉にするのが俺はどうにも苦手だ。
ドラマに出てくるような奴らみたいにサラッと気の利いた台詞を言えたら、隣を歩く寿々歌が今より安心出来るのは分かっている。だが、それが出来ないからこんなに悩んでいるわけだ。俺は学ランのポケットに手を突っ込む。小さな箱が早くここから出せと言うように手にあたった。言葉が無理ならせめて行動で示せ。と追加で言われているような気もする。
「幸晴、家着く前にこれ――」
「待った!」
「えっ?!」
寿々歌がカバンから袋を取り出す前に俺はそれを止めた。案の定、寿々歌は困惑した顔をしている。
「柄じゃねえのは分かってるけどよ」
「うん?」
「こっちから渡すのもたまには有りだろ」
俺は顔に集まる熱をなんとか無視して寿々歌にポケットにいれていた小さな箱を差し出す。ピンクのリボンでラッピングされたそれに寿々歌が驚きながら「幸晴が買ったの?」と言う。頷くと寿々歌が小さく笑う。それに、「あのなあ、俺がどれだけ恥を忍んで買ったと……」と愚痴をこぼそうと顔を見るとそこにあったのは、自分が想像していたからかうような表情ではなく、何も言わなくても分かるくらい“嬉しい”という気持ちが溢れている表情だった。
「逆チョコかあ! 本当に嬉しいよ。ありがとう、幸晴」
「……おう」
「幸晴大好き! はい、私からもチョコどうぞ!」
「――っ、ああ、サンキュ……」
渡されたの水色のリボンがかけられた袋を受け取り、潰さないようにリュックに入れる。
寿々歌は鼻歌を歌いながらまだ箱を見つめていた。
――これだけでこんなに喜んでくれるなら、バレンタインに俺からチョコを渡すのも悪くはない。
▼登場人物
小宮 幸晴(こみや ゆきはる)
高城 寿々歌(たかしろ すずか)
2/14/2024, 11:31:22 AM