作家志望の高校生

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はぁ、と長く長く溜息をついてみる。真冬の寒さに満たされた外気の中では、それはすぐに真っ白になった。
そうやって何度か遊んでいると、幼い頃誰もがしただろう遊びがふとしたくなった。
そのままの足で近くのコンビニへ寄って、迷わず菓子売り場へ突き進む。手に取ったのは、タバコを模したラムネ菓子。
外に出たら、ガードパイプに軽く座って、ちょっとカッコつけたようなアンニュイな表情と仕草でラムネを咥える。適当に二、三回舐めてから、ゆっくりと息を吐き出した。数回繰り返したところで、冷静になった心の片隅が羞恥に耐えきれなくなってラムネを噛み砕く。薬のトローチに似たような、少しだけ清涼感のあるココアの風味が鼻を抜けた。
まだ5本も残っている中身を見て、そもそもそこまでラムネが好きではない俺は処理に困った。明日適当な友人になすりつけることにして、箱を乱雑に制服のポケットに押し込む。
いつも紫煙の匂いを纏って、気怠げな瞳の中に確かな意志の色を宿した人。その人の真似事に過ぎなかった。まだ幼かった俺に外の世界を教え、光の下へ連れ出してくれた人。あまりに自由奔放な彼は、俺が中学一年生の時に突然異国の地へ飛び立ったまま音信不通。体調を崩していないか、何かに巻き込まれてはいないか、それ以前に生きているのかすら分からない。
はぁ、とまた長く息を吐く。彼の吐く煙草の煙と違って、所詮水でしかない俺の息はあっという間に霧散して消えてしまう。彼の煙草のように、匂いで記憶に染み付くことも、その場の空気を揺らめかせることもない。
なぜだかどうしようもなく寂しくなって、薄暗くなり始めた冬の空を見上げた。藍色の空に白い月が頼りなく浮かんでいて、それを薄い雲が暈している。
「……風邪引くぞ?」
動けなかった。あまりに聞き覚えのある声だった。そして、何より。
「んだよ。なんでそんな幽霊見たみてぇな顔してんの?」
あまりに馴染み深く、俺の記憶に染み付いて離れない、甘ったるいような煙草の匂い。
その場に放り出された白い吐息に、くゆる煙草の紫煙が絡みついた。

テーマ:白い吐息

12/8/2025, 5:40:35 AM