(※二次創作)(特別な存在)
じっくりたっぷり悩んだ末に、牧場主エイジは天を仰いだ。
「ああむり、僕には選べない!!」
返事を貰いに来た雑貨屋のジャックは、特大のため息を返した。
「選べないって、それじゃあ約束を破るのか?」
事の発端はこうだ。都会から祖父の牧場の跡地にやってきたエイジは、あっという間に牧場を立て直し、かつ、豪華客船が毎月立ち寄るまで街を発展させた。お昼ご飯までに仕事を終わらせ、昼からは街を歩いては人々と交流し、暮れなずむ時間帯から日付が変わる寸前まで今度は非連続な仕事に戻る。困っている人を放っておけないし、みんなの誕生日や好物を覚えて配って回るし、結果としてエイジは、とてもモテたのだ。
オリーブタウン中の若者たちと恋人や親友になること、まさかの10股。
当然、浮気された若者たちは面白くないが、それでも許してしまうぐらいエイジに惚れこんでいる。結果、誰を選んでも恨みっこなしだから、特別な存在をひとり選んでほしいと全員で詰めかけて、エイジにイエスと言わせたのだ。
「約束は破らないけどぉ……」
エイジはうじうじと言い返す。
「あのね、一人はジャック、君なんだ。でももう一人、同じぐらい好きな人がいるんだ。イリスさんって言うんだけど」
「は?」
ジャックはここに来て、知らない名前に面食らった。エイジは10股ではなかったのか。よくよく聞くと、エイジの牧場から行ける場所が3か所あり、それぞれ4人ずつ、計12人も恋人や親友がいるのだという。
「に、にじゅうに股……」
「そこから2人に絞ったんだよ、すごくない?」
エイジは縋るような目でこちらを見ている。その2人のうち1人に選ばれて嬉しいのに、素直に舞い上がれないジャックは困ってしまう。二の句が継げないうちに、エイジは、
「あ!」
と顔を輝かせた。
「いいこと考えた!ジャックと僕とイリスさんの3人で暮らそう!」
「どこが『いいこと』だよこの優柔不断男!!」
ジャックの声が空に響く。
3/23/2024, 10:51:14 PM