するすると剥けていく。天女が羽衣を脱ぐように、薄く軽やかに、丸裸になった梨を一口齧れば、この世の恵みに涼やかなものが加わった味がする。
ほんのり甘いみずみずしさ。
となりに座る天女にも一口食べる?と差し出した。彼女は一口食べるとそれから後の全てを食べてしまった。
「美味しかった?」
「ええ、身体によく馴染みました」
「それはよかったですね」
私は木にかかった羽衣を見ながら
「はやく乾くといいですね」
と言った。彼女は不思議そうに私にこう言った。
「どうしてですか?」
「早く帰りたいかと思って…」
「だから羽衣が乾けばはやく帰れると?」
私はうなづいた。天女は微笑むと、
「羽衣がはやく乾くなんてありえないわ」
と言った。
「どうしてですか?」
「だって羽衣は私のために乾いてくれているのに、私がそれを急かすなんておかしな話ですもの。まるで帰れないのが羽衣のせいみたいじゃありません?」
「…そう、ですね」
「ちょうど良い時間に羽衣は乾きます。何事にもタイミングはあるのです。それまではのんびり待つのがよろし」
私は天女の言葉に微笑みうなづきながら、羽衣にほんの少しだけ遅く乾いてくれと祈った。
『梨』
10/15/2025, 2:05:36 AM