「ご安心ください、命に別状はありません」
分かっている。私の父と妹は交通事故でついさっき怪我をしたらしい。幸いな事に命は無事で、後遺症は残らないかすり傷ばかりらしい。
どんな車に轢かれたのか聞くと、それはどうやらかなり激しい運転をしていた車らしい。
普段は穏やかな人柄で、親友がいるらしく、今は親友の人が傍にいる。偶然、近くにいたから不安で、なんとか警察に頼み込んで着いて来たらしい。
しかし、彼は身内でも無いのにどうして態々着いてきたのか。いるだけで大した意味もないように見える。
「申し訳ありません」
「何故、激しい運転を?」
できるだけ、平静を、冷静を保っているように見えるように振舞った。どうしていいか分からないし、もう大人なんだから。
彼は今、松葉杖があってようやく歩けるような骨折患者に見える。親友に背中を摩られながら、ようやく息をしているような声で息を吸い込んで、喋ろうとしている。
「…父が、倒れたって妹から連絡が来て…気が動転しました」
嗚呼、成程、家族を大切にしている人だ。急いで病院に行きたいんだろう。
どうして彼を責めればいいか分からない。責める必要があるのかも分からない。
ただ、目の前の彼は非常に寂しく、悲しい存在に思える。このまま私が彼に何もしなければ、彼はこれから先どうなるんだろう。
「修理代さえ頂ければ、実際かすり傷だらけで…」
私は彼を責めるつもりにならなかった。
ただ、彼を忘れることはこの先ないだろう。
10/14/2024, 10:59:06 PM