『ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。』
店員さんの気の抜けた「いらっしゃいませー」を聞いた時、私は短く息を飲んだ。
この配置、嫌な予感がする。
私は瞬きするより早く店内を見回した。
そして、ゴクリと唾を飲む。
もはや私に対する策略なのでは、と思った。
私はただ、ATMに用があるだけなのだ。それ以外にこのコンビニに用はない。
だというのに。
目的地のすぐ横にあるのは、紛れもなくスイーツコーナーではないか。
今月のお小遣い、ピンチなんだぞ。
しかも、最近、お腹のお肉が摘めるし。
私は乾いた唇をギュッと結んだ。
やるべきことは明白だ。
店員さんや他のお客さんに怪しまれない。かつ、スイーツコーナーの誘惑から逃げることのできる。そのギリギリのスピードで走り抜け、目的地に辿り着く。
できるか? いや、やるんだ。
3、2、1、今だ、走れ!
そして。
店員さんの間延びした「ありがとうございましたー」を聞いた時、私は長いため息をついた。
私の右手のレジ袋にはプリンとデザートスプーンと、レシートが入っていた。
5/30/2023, 12:57:45 PM