傾月

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私には、夫に伝えていない秘密がある。
お付き合いしている頃から、今日打ち明けようか明日打ち明けようかと思い悩んでいる内に、とうとう秘密は秘密のまま、結婚までしてしまった。
仲間たちに相談しても、何故さっさと言ってしまわなかった、覚悟を決めて一刻も早く言うべき、今ならまだ傷は浅い、などと至極真っ当はなことを言ってくる。まぁ、どう考えても私が悪いのだが。
愛する人と少しでも長く一緒にいたかった、単なる私の我儘。

しかしある日突然、最も恐れていた事態になってしまった。帰還命令が出たのだ。これは命令だ、こちらに拒否権は無い。仲間たちは皆、次々に出発しているようだった。とうとうこの時が来てしまった…、覚悟を決めて夫のいる部屋へ行く。
ノックをして入ると、何もない机に向かったまま身動きひとつしない夫が見えた。呼びかけると初めてこちらに気付いた様子。お茶でも淹れましょうか?と聞くと、大きくひと呼吸して「話がある」と言った。そう、と笑顔で返す。私もお話があるの。
キッチンでお茶を淹れ、2人並んでソファー座る。ひと口飲んだ後、夫が口を開き「キミに黙っていたことがある。」と切り出した。「実はボク、この星の人間じゃないんだ。」驚いて夫の方に向いた私の目は、さぞかし大きく見開かれていたに違いない。夫は申し訳無さそうに「すまない、もっと早くに言うべきだったのに、どうしても言えなくかった。」「キミを失いたくなかったんだ…」と続けた。戸惑いを隠しながら、じゃあ貴方はどこの人なの?と尋ねると「××星…」と言う。私の大きく見開かれた目は見る見る内に涙で一杯になった。悲しいからではない、嬉しいからだ。泣き笑いで夫に、私も、と言う。目を見開くのは夫の番となった。

青い星を出て白い星を目指す。2人、手を取り合いながら。


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                #9【これまでずっと】

7/12/2023, 11:56:51 PM