匿名様

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夏空がよく似合う。
この季節には似つかわしくないような白い肌も、ふわふわと広がる波打った細い髪も、あの不気味なほどに無機質で平坦に伸びる青色の中では一際浮かんで見えた。
今日は快晴だ。
少女が駆け回るにはいささか強すぎる日差しが地面を焦がしている。庭の向こう側で向日葵が揺れた。
気遣いで差し出した日傘は、不自由になるからと断られたのだったか。代わりに送ったつばの広い麦わら帽子は随分と気に入ってくれたようだ。
淡い花柄のサマードレス、ほんの少し大人ぶるローヒールサンダル。花壇を手入れする最中に摘んだ、いくつかの花をその帽子に差してやれば、少女はこちらを見上げてはにかんだ。
細かな網目状の影が落ちる柔らかな頬。控えめなそばかすと、ひんやりと透き通った瞳がずっと私の頭に棲みついている。楽しそうに口角の上がった唇から紡がれる音階の名前が思い出せない。けれどずっと懐かしさが記憶を叩いている。
青々と茂る植物たち。芝生を踏む音。じりじりと景色を揺らす陽炎。手に持ったホースから弧を描いて流れゆく水がそれら全てを濡らす。
暑い、日だった。

手が滑る。盛大に足にかかった冷たさに気が付いた時、直射日光が見せたいつかの情景は消え去っていた。
足元に落ちた花を拾う。眩しくひらめくスカートの裾が、くらくらとする視界の端に映った気がした。
ああ、せめて帽子くらいは被っておくんだった。


【麦わら帽子】

8/12/2023, 2:46:20 AM